こんにちは、KOHです。
2月7日、銀座の日本料理店「銀座しのはら」さんにお邪魔しました。
ずっと行きたかったお店です。ただ、ここは予約が2か月先まで埋まっていて取れませんでした。ようやく確保できたのが、この日の17時の回。カウンター12席、17時と20時半の二回転制という、席数の少ないお店です。
結論から言うと——2か月待った価値が、皿の一枚目からありました。

地下へ降りると、藍の暖簾に白く「しのはら」。壁のニッチには灯りに照らされた置物がひとつ。この数メートルの導入だけで、もう店の格が分かります。

席に着いたら、狐が待っていた

カウンターに通されて、まず目に入ったのが卓上の狐の面でした。和紙を貼り重ねて作った、手仕事の面です。

しかも、私の席だけではありません。12席すべてに、同じ狐が座って客を待っている。この光景を見た時点で、正直ちょっと笑ってしまいました。完全にやられています。

煎茶が出てきても、狐はまだそこにいます。
この日は2月7日。節分の直後です。カウンターの向こうの設えにも、赤い鬼の面と柊、餅花が飾られていました。


鬼は外。福は内。追い出される側の面と、福を運ぶ側の面が、同じカウンターに並んでいる。季節のしつらえとして、これ以上ないくらい正しい配置です。
そして、この狐面。銀座という街に置かれているという一点で、意味が一段深くなります。
なぜ銀座には、こんなに稲荷が多いのか
狐は、稲荷神のお使いです。そして銀座は、日本でも有数の「稲荷だらけの街」なんです。
調べてみて、正直びっくりしました。一丁目から八丁目まで、ほぼすべての丁目に稲荷があります。
- 一丁目/幸稲荷神社 ── 京都・伏見稲荷から勧請。縁結びで知られる
- 二丁目/銀座稲荷神社 ── ビルの屋上に鎮座。普段は非公開
- 三丁目/朝日稲荷神社、宝珠稲荷神社 ── 朝日稲荷も拝殿はビル屋上
- 四丁目/歌舞伎稲荷神社 ── 歌舞伎座に直結。大入りを祈願する
- 五丁目/あづま稲荷神社 ── 三原小路の路地に。火防と盗難除け
- 六丁目/靍護稲荷神社 ── 1815年創建。今はGINZA SIXの屋上に
- 七丁目/豊岩稲荷神社 ── 路地裏の縁結びスポット
- 八丁目/八官神社 ── 元の名は「穀豊稲荷神社」
毎年秋には、この八社をめぐる「銀座八丁神社めぐり」というイベントまで開かれています。
では、なぜこれほど多いのか。ご利益の顔ぶれを並べると、答えが見えてきます。
火防(ひぶせ)。盗難除け。商売繁盛。
——全部、商人が本気で怖がったことです。
銀座は江戸期から幾度も大火に遭い、関東大震災でも焼けました。店が焼ければ、財産も商いも一夜で消える。だからこの街の旦那衆は、店を建て直すたびに稲荷を祀った。建て替えで土地がなくなれば、ビルの屋上に上げてでも祀り続けた。二丁目や三丁目の稲荷が屋上にあるのは、そういうことです。
つまり銀座の稲荷は、観光用の飾りではなく、この街が「守り」を必要としてきた歴史そのものなんですね。
その街の、地下一階のカウンター。そこに置かれた一枚の狐面。季節の飾りのつもりで見ていたものが、急に街の文脈に接続した瞬間でした。料理が来る前から、この店を好きになる理由ができてしまいましたw
大将・篠原武将さんのこと

お店を仕切るのは、大将の篠原武将さん。
1980年、滋賀県のお生まれ。もともとは空手の選手として有望視されていたそうで、そこから料理の道へ進路を変えたという、なかなかの異色の経歴です。京都の懐石料理店などで修業を重ね、26歳で滋賀に独立。その店が9年で日本有数の人気店になり、2016年に銀座へ進出したのが、この「銀座しのはら」です。
地元・滋賀の猟師から猪や熊を直接仕入れることでも知られています。「自分に深く根付いた食材でなければ、本当の自分を料理で表現できない」——そういう考え方の方なのだそうです。
カウンター12席というのは、大将の手が全部の皿に届く限界の数ということなんでしょうね。
おまかせコース28,600円。まずは八寸から

この日いただいたのは、おまかせコース(28,600円)。そこにオプションで蟹(5,000円)を追加しました。追加できると言われたら、頼まない理由が私にはありませんw
八寸は、木の板の上に小さな仕事がずらり。黄色い小皿には小魚を炊いたものが一尾。この一尾のためだけに、この色の皿を選んでいるわけです。

器が、いちいち良い。青磁、六角、盃。料理が変わるたびに皿が変わるので、写真を撮る手が止まりません。

椀は、白く濁った出汁に貝と筍、木の芽。2月の椀に春を一枚だけ差し込んでくるあたりが、憎い。
氷の球体が運ばれてきた

コースの途中、大将が抱えて持ってきたのがこの氷の球体。梅の枝が一本挿してあります。
何が始まるのかと思ったら——中から出てきたのは、白い紙に包まれたお造りでした。


紙を開くと、貝、海老、白身。氷の中で締められた状態で運ばれてきたわけです。
「冷たいうちに食べてください」を、器の構造そのもので実現している。説明を一言も足さずに、料理の状態を客に伝えてくる。こういう仕掛けは、目の前で開けるカウンターだからこそ効きます。
伊勢海老は、生きたまま挨拶に来る

次は伊勢海老。まず生きた状態で、金の皿に乗せて見せに来ます。3尾、堂々たる面構え。

焼き上がりがこちら。大根おろしと柚子を乗せて。さっき挨拶した相手が、10分後に焼かれて戻ってくる。残酷なようですが、これが日本料理のカウンターというものです。ありがたくいただきます。
名物、フォアグラ最中

そしてしのはらの名物といえば、これ。フォアグラ最中です。
貝の形をした最中に、フォアグラとウニ。手渡しでいただきます。和菓子の器に、フランス料理の食材を挟む。言葉にすると乱暴ですが、口に入れると一瞬で納得します。最中の香ばしさと軽さが、フォアグラの重さをきれいに受け止めてくれる。
この一品、後述するおせちにも入っています。それくらいの看板メニューということですね。


絵唐津の器に肉のたたきと木の芽。染付の皿には唐揚げと温泉玉子。高級店の顔をしながら、こういう「うまいに決まってる」皿もちゃんと出してくるのが良いんですよ。
オプション5,000円の蟹。その正体は、脚の帯が教えてくれた

追加した蟹が、丸ごと一杯、目の前に運ばれてきました。
写真をよく見てください。脚の付け根に、黄色い帯が巻かれています。
ズワイガニには産地ごとのブランドタグがあり、その色は港ごとに決まっています。
- 黄色/越前ガニ(福井)── 甲幅145mm以上・1.3kg以上・ハサミ幅30mm以上が条件
- 緑(丸型)/間人ガニ(京都・丹後)
- 青/津居山ガニ(兵庫)、隠岐松葉ガニ(島根)、加能ガニ(石川)
- 白/浜坂ガニ(兵庫) 白地に赤文字/鳥取松葉ガニ
- ピンク/柴山ガニ(兵庫) ※最高級は黒地に金
黄色を使っているのは、越前ガニだけです。
ついでに面白い事実をひとつ。松葉ガニと越前ガニは、生物としてはまったく同じカニです。どちらもズワイガニのオス。福井で揚がれば越前ガニ、京都・兵庫・鳥取で揚がれば松葉ガニ。名前を決めているのは、身でも味でもなく「どこの港に着いたか」だけなんですね。
5,000円払って追加した蟹が、どこから来たのか。それを、脚に巻かれた帯の色が教えてくれる。

ほぐした身に、すだちを一絞り。

焼き蟹は、甲羅ごと炭火で。

柚子釜に詰めたものまで。一杯の蟹を、形を変えて三度出してくる。5,000円の答え合わせとしては、文句のつけようがありません。
〆は、大根の炊き込みご飯

土鍋の蓋が開いて、出てきたのがこれです。
びっしり敷き詰められた、角切りの大根。
鮨でも天ぷらでも、蟹でも松茸でもなく——大根です。
高級店の〆というと、どうしても豪華な食材に走りがちなところを、ここで大根を持ってくる。しかもそれが、コース全体でいちばん記憶に残る一皿になっている。この選択に、この店の芯が出ていると思いました。

茶碗によそって、海苔巻きとおにぎりを添えて。ここまで来ると、もう何も足すものがありません。


甘味と抹茶で、静かに終わります。

ちなみにお手洗いへ向かう途中に、大将を描いた一枚の絵が飾られていました。仕事中の大将を描いたスケッチに、献辞とサイン、そしてミッキーマウスが一匹。
これ、ウォルト・ディズニー本社の方が来店した際に描いてくれたものなのだそうです。
滋賀から出てきた元空手選手の板前が、銀座の地下でカウンターに立ち、その手元をディズニーのアーティストが描いていく。字面だけ並べると出来すぎた話ですが、実物が廊下に、さりげなく飾られています。
しのはらは、おせちもやっています(現在予約受付中)
あのフォアグラ最中、実はおせちにも入っています。
しのはらはおせちを販売していて、この記事を書いている時点で予約受付中です。
- お節(フォアグラ最中付・23品目)/35,640円 ※早期特典:半生からすみ餅4つ付
- 1〜2人前ミニお節(22品目)/15,980円 ※早期特典:フォアグラ最中2つ付
注目してほしいのは「1〜2人前ミニお節」があることです。おせちというと三段重・4〜5人前が当たり前の世界で、ひとり分をちゃんと作ってくれる店は多くありません。しかも早期特典であのフォアグラ最中が2つ付いてくる。
私も2027年分を買うつもりです。ひとりの正月に、予約2か月待ちの店の味が届く。これはなかなか、いいお金の使い方じゃないでしょうか。
※価格・内容・受付状況は変更される場合があります。最新は公式ページでご確認ください。
まとめ:2か月待つ価値のある店
- カウンター12席・二回転制(17:00/20:30)。予約は2か月先まで埋まっていた
- おまかせコース28,600円+蟹のオプション5,000円。蟹は黄色いタグ=越前ガニ
- 大将は滋賀出身の元空手選手。地元の猟師から仕入れる食材が持ち味
- 名物はフォアグラ最中。おせちにも入っている看板メニュー
- 〆は大根の炊き込みご飯。高級食材で殴らない〆が、いちばん効く
- 2月に訪れるなら、節分のしつらえ(狐面と鬼の面)も見どころ
ひとりで高級日本料理のカウンターに座るのは、最初こそ緊張します。でも、12席しかない店で大将の手元が全部見えるというのは、ひとりだからこそ味わえる特等席でもあるんですよね。
お邪魔しました。
店舗情報
銀座しのはら
東京都中央区銀座2-8-17 ハビウル銀座2 B1F
東京メトロ有楽町線「銀座一丁目駅」より徒歩3分/銀座線・丸ノ内線・日比谷線「銀座駅」より徒歩5分
営業時間:17:00〜23:00(17:00〜/20:30〜の二回転制)
定休日:日曜
カウンター12席
※営業時間・定休日・料金は変更される場合があります。訪問前に公式情報をご確認ください
